はじまり


海上は夏気候。
甲板をぎらつく太陽がジリジリと焦がすのもお構いなしに、背中にその船の印を背負った青年が胡坐を掻き、どこを見ているわけでもない瞳は暑さに浮かされたものか、時折ゆらりと泳ぐ。
その指に幾度となく火を灯したり消したりと繰り返すのは彼の落ち着かない心情を表したものだろう。
いつもは暑苦しいほど騒ぎ立てる奴なのにどうしたことか。と仲間も心を配る程だ。
「帽子被っとかねえといくらのお前でも熱中症になるぞ」
背中の印の次にトレードマークとなっているオレンジのハットを、ウェーブ掛かった黒髪へ緩く乗せ声を掛けたのは四番隊隊長サッチ。仲間の心配の眼差しを背負っての接触。

「どうした?珍しい」
「オレも分かんねえ。なんだろう…」
隣に座り大して効果のない手扇ぎで暑さを堪えながら、悩みでもあるなら聞くぞと切り出したサッチもそんな返答には助け船を出してやる言葉が見つからない。
「こう、火みたいにボッと点いてパッと消えんだ。それなのにまたボッと点いて…また消える」
「なんだそりゃ」
「だから分かんねえんだって」
口を少し尖らせ、眉を潜め悩む姿はサッチでなくても誘惑される可愛らしさ。
「心臓らへんがジジジッて炎に焦がされそうな程熱くなんのに、すぐ無くなんだ」

「おい、飯の時間だよい」
気付けば心配の目を向けていた仲間達も飯の合図に姿が消えており、甲板に残された2つの影に一番隊隊長が声を掛ける。
「飯、行く!行くよ!」
その合図に悩めかしい表情はどこへやら、笑顔になると同時に立ち上がり飛び出す。
まったく現金な奴だよいの言葉をため息にすり替え、誰より先に食堂へ走る彼の背中を見送りながら、サッチと共に食堂へ向かう。

「悩み事してんだって。聞いてやってよ、マルコ」
お手上げのポ−ズを見せ、そのままその手を後頭部へ回す。
「エ−スが望んでねえなら、わざわざ聞き出す事しなくていいだろい」
「気になんねえ?可愛い末っ子がいつものエネルギー悩みにあててんなんて」
「飯食ったら元気になんだろ」
あはっはと笑い上げ、マルコの肩を一叩きする頃には自分達も食堂へ着き席へ座る。

人一倍ガシャガシャと音を立て飯を食べられれば自然にそちらへ目が向いてしまうものだ。
(元気そうじゃねえかよい)
最後に一叩きされた肩に任されたのは言葉にしなくても分かったが、果たして自分が満足にエ−スの悩みなど聞いてやれるのだろうか。
食堂の注文窓口へ向かい、いつものお気に入りのメニューを注文しながらただでさえ人一倍仕事の多い一番隊隊長に厄介な面倒事が増えた事に頭を痛める。
自らの飯を持ってエースの隣へ腰を掛けた。
「エース」
「ん?」
「悩み事、聞いてほしいなら後で俺の部屋来いよい」
頬に沢山の飯を詰めたまま、マルコの言葉に手を止め目を向け、口の中を空にした後に頷く。


自分の心が熱を上げている事に、気付きながら。



-*TO BE CONTINUE*-